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高齢猫の認知症——それ本当に認知症ですか?
「最近、夜中に大きな声で鳴くようになった」「同じところをぐるぐると歩き回っている」「トイレじゃない場所で粗相をするようになった」——そういった変化を見て、「認知症かもしれない」と心配になる飼い主さんは少なくありません。
ただ、正直にお伝えすると、猫の認知症は実際の診察現場ではそれほど多く見られるものではありません。似た症状が出る別の病気、特に甲状腺機能亢進症や高血圧が原因であることの方が多いです。
このコラムでは、猫の認知症という病気について正直にお伝えしながら、「認知症かも」と思ったときに何を考えるべきかを整理していきたいと思います。
猫の認知症は、実はまれな診断

猫の認知症(認知機能不全症候群)は、確かに存在する病気です。加齢に伴って脳の神経細胞が変性・脱落することで、記憶力や学習能力が低下し、行動に変化が現れます。
ただ、往診の現場で「認知症かもしれない」という相談を受けた猫の多くは、診察や検査を行うと甲状腺機能亢進症やそれに伴う高血圧が見つかるケースが大半です。実際に認知症と診断した猫は、これまで20歳・24歳という超高齢の2頭のみでした。
「認知症」という言葉はわかりやすいだけに、行動の変化をそこに結びつけてしまいがちです。しかし、認知症と決めつけてしまうと、治療できる別の病気を見逃してしまう可能性があります。まず「本当に認知症なのか」を丁寧に確認することが大切です。
「認知症かも」と思ったときに疑ってほしい病気
猫の行動変化で最初に除外すべき病気をまとめます。
認知症と間違われやすい主な病気
・ 甲状腺機能亢進症
中高齢の猫に非常に多い病気です。夜鳴き、落ち着きのなさ、食欲増加、体重減少などが現れます。「急に夜鳴きが始まった」という猫の多くが、実はこの病気です。血液検査で診断でき、治療によって改善が見込めます。
・ 高血圧
甲状腺機能亢進症や慢性腎臓病に続発することが多く、視覚障害(瞳孔が開いたまま、目が見えていない様子)、神経症状、夜鳴きなどが現れます。血圧測定と治療で対応できます。
・ 慢性腎臓病
高齢猫の多くが抱える病気です。体重減少、食欲低下、多飲多尿などが認知症と混同されることがあります。
・ 痛み(関節炎など)
高齢猫の関節炎は非常に多いですが、猫は痛みを隠しがちです。トイレの失敗(またぎにくい)、高い場所に上がらなくなる、動きたがらないなどの変化が認知症と間違われることがあります。
・ 視覚・聴覚の低下
目や耳の老化により、反応が鈍くなったり、暗い場所で不安から鳴いたりすることがあります。
では、猫の認知症はどんな状態のときに疑うのか
上記のような内科疾患をすべて除外したうえで、それでも説明のつかない行動変化が続く場合に、認知症が疑われます。往診でこれまでに認知症と診断した2頭の様子をお伝えします。
認知症が疑われた例① 24歳・猫
トイレの失敗が増え、壁に向かって大きな声で鳴くという行動が見られました。各種検査では内科的な異常は認められず、年齢と行動の特徴から認知症と診断しました。24歳という超高齢であったことも、診断の根拠のひとつです。
認知症が疑われた例② 20歳・猫
夜になると落ち着きなく鳴き続けるという状態でした。甲状腺機能や血圧、腎機能などを検査しましたが、大きな異常は見られませんでした。20歳という年齢と症状の経過から、認知症による夜間の不安・混乱と判断しました。
このように、猫の認知症は20歳を超えるような超高齢の子で、他の病気を除外したうえで初めて疑うものというのが、現場での実感です。
それでも認知症と診断されたら

認知症そのものを治す方法は現時点ではありませんが、その子が穏やかに過ごせるよう助けることはできます。
環境の工夫
・ 生活環境を変えない
模様替えや引っ越しは大きな混乱を招きます。家具の配置や生活リズムをできるだけ一定に保ちましょう。
・ トイレを増やす・またぎやすくする
場所を忘れてしまうことに備えて複数置き、縁が低いものに替えると失敗が減ります。
・ 夜間は薄明かりをつけておく
暗さへの不安が夜鳴きにつながることがあります。常夜灯で完全な暗闇を避けるだけで落ち着くことがあります。
・ 声かけや触れ合いを続ける
猫のペースに合わせて、無理のない範囲で関わり続けることが大切です。そばにいる気配そのものが安心につながります。
医療的なアプローチ
・ 漢方薬・サプリメント
不安や夜鳴きを穏やかに和らげる漢方や、脳機能をサポートするとされるサプリメントを取り入れることがあります。
・ 投薬
夜間の不安や興奮が強い場合は、獣医師と相談のうえ、症状を和らげる薬を使うことも選択肢のひとつです。
よくあるご質問
Q. 夜中に鳴くようになりました。認知症ですか?
A. 猫の夜鳴きの原因として最も多いのは、認知症ではなく甲状腺機能亢進症や高血圧です。まずこれらを除外するための血液検査・血圧測定を受けることをおすすめします。「認知症かもしれない」と思って受診した猫の多くが、治療できる別の病気だったというケースを多く経験しています。
Q. 何歳ごろから認知症になりますか?
A. 猫の認知症は15歳以上で発症リスクが高まるとされていますが、往診の現場での実感では、認知症と確信をもって診断できるのは20歳を超えた超高齢の子がほとんどです。それ以下の年齢で認知症を疑う症状が出ている場合は、まず他の病気を確認することをおすすめします。
Q. 認知症かどうか、自宅で確認できますか?
A. 残念ながら、行動の変化だけで認知症かどうかを自宅で判断することは難しいです。似た症状が出る病気が多く、血液検査や血圧測定などの検査が必要です。「なんとなく様子が変わった」という段階でも、早めに受診していただくことをおすすめします。
Q. 認知症の介護がつらくなってきました。
A. 夜鳴きへの対応や排泄の失敗など、介護の負担は日々積み重なります。「つらい」と感じること自体、おかしいことではありません。往診では、症状を和らげる医療的なアプローチとあわせて、ご家族の介護負担を減らすことも一緒に考えています。ひとりで抱え込まず、ぜひご相談ください。
よつば動物病院では、「うちの猫も認知症かも」というご相談も、往診の場でお聞きしています。まず原因をきちんと確認するところから、一緒に始めましょう。
WRITER 武波 直樹
よつば動物病院 / 院長
山口県出身。1980年生まれ。北里大学卒業後、岡山・神戸の動物病院で延べ3万件の診察と2000件以上の手術を経験。末期の動物を「家で看取りたい」という飼い主の声に応えたいとの思いから、2017年、近畿圏で初の往診専門動物病院「よつば動物病院」を開業。訪問診療はのべ1万3千件を超える。飼い主と動物の「その子らしい時間」を支えることを信条としている。
神戸市獣医師会所属、往診獣医師協会理事、日本獣医循環器学会所属、日本ペット栄養学会所属



