• 猫の腎臓病の「原因」とは?

    今回は「じゃあ、なぜうちの子がなったんだろう」という、ご家族が必ずといっていいほど口にされる疑問についてお伝えします。

    先に結論めいたことを言ってしまうと、慢性腎臓病は「これが原因です」とはっきり言えないケースがほとんどです。

    多くは「加齢」の積み重ねです

    慢性腎臓病の一番の要因は、加齢による腎臓組織の変化です。

    腎臓は日々、血液をろ過し続ける臓器で、長年働き続けるうちに少しずつ組織が硬くなり、線維化と呼ばれる変化が進んでいきます。

    人間で言えば、長年使った機械の部品がすり減っていくようなものだとイメージしてもらえればと思います。

    猫は5〜6歳を過ぎたあたりから発症リスクが上がり始め、高齢になるほどその確率は高くなります。

    これは特別な出来事があったわけではなく、生きてきた年月そのものが原因になっている、ということです。

    感染症や中毒がきっかけになることもあります

    加齢以外にも、腎臓にダメージを与える出来事がきっかけとなることがあります。

    ・ 細菌感染や猫伝染性腹膜炎(FIP)などのウイルス感染による腎炎

    ・ ユリ科の植物や不凍液など、中毒性のあるものの誤食

    ・ 尿路結石による尿の通り道の閉塞

    ・ 免疫の異常による腎炎

    ・ ケガや、心臓病・ショックなどによる腎臓への血流低下

    これらは急性の腎障害として現れることが多いのですが、そのダメージが完全には回復せず、時間をかけて慢性腎臓病に移行してしまうこともあります。

    だからこそ、「一時的に具合が悪くなって、点滴で良くなったから安心」というわけではなく、その後の経過を見ていくことが大切なのです。

    生活環境も、無関係ではありません

    ほとんどが室内飼育となった今、運動不足や肥満、ストレス、水分摂取量の少なさといった生活環境の要因も、腎臓への負担につながると考えられています。

    もともと猫という動物は、祖先が砂漠地帯で暮らしていた名残から、あまり水を飲まなくても生きていけるように体ができています。

    これは裏を返せば、脱水傾向になりやすく、腎臓に負担がかかりやすい体質だということでもあります。

    なので往診でお伺いした際には、水飲み場の数や置き場所まで含めてお話しさせてもらうことが多いです。

    猫特有の「AIM」という視点

    ここ数年、猫の腎臓病の“そもそもの原因”に関わる研究として大きな注目を集めているのが、AIMというタンパク質をめぐる研究です。

    AIMは血液中に存在するタンパク質で、体内の老廃物やゴミを掃除する働きに関わっています。

    ところが猫の場合、このAIMが血液中で別のタンパク質と強く結びついたまま外れにくく、本来の掃除機能をうまく発揮できないことがわかってきました。

    その結果、腎臓に老廃物がたまりやすくなり、慢性腎臓病につながってしまう、というのがこの研究の骨子です。

    つまり、猫が犬や人間に比べて圧倒的に腎臓病になりやすいのは、単なる体質や生活習慣の問題だけでなく、猫という種に特有の生理的な理由があるのかもしれません。

    加齢や生活環境だけでは説明のつかなかった部分に、ようやく理屈が通ってきた、というのが正直な感覚です。

    現在、このAIMの働きを補う薬剤の開発が進んでおり、日本では2026年4月に農林水産省への承認申請が行われました。

    報道ベースでは『順調にいけば年内の実用化も視野に入っている』とされていますが、最終的な承認時期や使い方の詳細は今後の審査結果を待つ必要があります。

    開発段階の成績では、進行した腎臓病の猫の生存期間や状態が改善したという報告もあり、期待の大きい薬です。

    ただし、注意しておきたいのは、この薬はすでに壊れてしまった腎臓の組織を元通りにするものではないという点です。

    あくまで進行を抑えるための薬であり、継続的な投与が必要になると見込まれています。

    実用化が待たれる段階ではありますが、今治療中の猫については、これまで通り現在の治療を続けながら、かかりつけ医と情報を追っていくことが大切です。

    猫種による差もあります

    ペルシャやアビシニアン、メインクーンなど、一部の猫種では遺伝的に腎疾患のリスクが高いことが報告されています。

    もし血統がはっきりしている場合は、その子の親や兄弟に腎臓病の既往があるかどうかを知っておくことも、意識づけとしては意味があると思います。

    「原因探し」より「今できること」を

    ここまでいくつかの原因を挙げてきましたが、実際は「これが原因でした」と言い切れることはほとんどありません。

    加齢、体質、生活環境、過去の感染症など、複数の要因が少しずつ積み重なって、ある日、数値として表れてくる。そんなイメージの方が近いように思います。

    だからこそお伝えしたいのは「なぜなったのか」を悔やむことよりも、「今、何ができるか」に目を向けてほしいということです。

    原因がはっきりしない病気だからこそ、これからどう向き合っていくかが、その子の時間の質を左右すると考えています。

    よくあるご質問

    Q1. うちの子はなぜ腎臓病になってしまったのでしょうか?私に何かできることはなかったのでしょうか?

    A. 大半のケースでは、加齢や体質など複数の要因が重なった結果であり、特定の行動が原因になったとは言い切れません。

    原因を一つに絞り込めない病気だからこそ、ご自身を責める必要はありません。それよりも今からできることに目を向けてほしいのです。


    Q2. AIMの薬ができたら、うちの子の腎臓病は治りますか?

    A. 現時点で開発が進んでいるAIMの薬は、完治を目指す薬ではなく、病気の進行を抑えることを目的とした薬です。

    実用化されたとしても、すでに失われた腎機能を回復させるものではないため、これまで通りの食事療法や投薬と組み合わせて使うことになる見込みです。


    Q3. 猫種によって注意すべきことはありますか?

    A. ペルシャやアビシニアン、メインクーンなど、遺伝的に腎疾患のリスクが高いとされる猫種はありますが、特別な予防法があるわけではありません。

    むしろ大切なのは猫種に関わらず、7歳以降は定期的な検査を習慣にすることです。


院長の写真

WRITER 武波 直樹

よつば動物病院 / 院長

山口県出身。1980年生まれ。北里大学卒業後、岡山・神戸の動物病院で延べ3万件の診察と2000件以上の手術を経験。末期の動物を「家で看取りたい」という飼い主の声に応えたいとの思いから、2017年、近畿圏で初の往診専門動物病院「よつば動物病院」を開業。訪問診療はのべ1万3千件を超える。飼い主と動物の「その子らしい時間」を支えることを信条としている。
神戸市獣医師会所属、往診獣医師協会理事、日本獣医循環器学会所属、日本ペット栄養学会所属