• 猫の腎臓病で「食事」が治療の要である理由

    今回は、猫の腎臓病治療において、実は薬以上に大切だと言われている「食事」についてです。

    慢性腎臓病の食事管理は「治療の中で最もエビデンス(根拠)が強い介入」と言われています。

    薬よりも先に取り組むべきものが食事なのです。

    なぜ、食事がそこまで重要なのか


    慢性腎臓病の療法食は、主に「リン」「タンパク質」「ナトリウム」の3つを調整しています。

    中でも重要なのがリンです。

    腎臓の機能が落ちるとリンをうまく排出できなくなり、体内に蓄積したリンがさらに腎臓にダメージを与えるという悪循環が起こります。

    リンを制限した食事を与えた猫は、そうでない猫に比べて生存期間が大きく延びたというデータも報告されています。

    タンパク質やナトリウムについても、老廃物の蓄積や血圧上昇を抑える目的で調整されています。

    初期のステージでは、タンパク質を制限しすぎないことも大切です


    「腎臓病=タンパク質を厳しく制限する」というイメージを持たれている方が多いのですが、これは必ずしも正しくありません。

    特にステージ1〜2のような早期の段階で急にタンパク質を制限しすぎると、筋肉量や体重が落ちてしまい、かえって体力を消耗させてしまうことがあります。

    そのため、早期の腎臓病に対しては、通常の腎臓用療法食よりもタンパク質の制限を緩やかにした「早期腎臓サポート」タイプの食事が選択肢になることがあります。

    タンパク質は猫にとって欠かせない栄養素なので、「制限すればするほど良い」というものではありません。

    どの段階でどの食事に切り替えるかは、血液検査の結果とその子の状態を見ながら、獣医師と一緒に判断していきましょう。

    切り替えは「焦らず、時間をかけて」


    療法食への切り替えで一番大切なのは、急がないことです。

    猫は環境の変化に敏感な動物で、新しい食事に慣れるまで数週間かかることも珍しくありません。

    これまでのフードに療法食を少しずつ混ぜ、1〜4週間ほどかけて比率を上げていくのが基本の進め方です。

    療法食はメーカーによって味やテクスチャーが大きく異なるので、1種類を試して食べなかったからといって諦める必要はありません。

    ドライ・ウェット・シチュータイプなど、いくつか試してみる価値は十分にあります。

    温度や器も、意外と食いつきに影響します。

    冷蔵庫から出したばかりのウェットフードは香りが弱いので、少し温めて体温くらいにすると香りが立って食べやすくなることがあります。

    また、ひげが器の縁に当たるのを嫌う猫は多いので、深い器より浅く広い皿に変えるだけで反応が変わることもあります。

    ですので、根気強くあきらめずに焦らず食事を切り替えていきましょう。

    水分をとってもらうことも、食事管理の一部です


    慢性腎臓病の猫は脱水しやすい体質です。

    もともと猫はあまり水を飲まない動物なので、食事から水分を補うという考え方がとても大切になります。

    その意味で、腎臓病の猫にはウェットフード中心の食事をおすすめしています。

    ドライフードが好きな猫には、ドライを少量とウェットを組み合わせるミックス給餌も一つの方法です。

    水皿を数か所に置く、流れる水を好む猫には循環式の給水器を使うといった工夫も、あわせて意識してもらいたいです。

    「食べないから」で我慢させすぎないでください


    ここでひとつ、大切な注意点です。

    猫は2〜3日以上ほとんど食べない状態が続くと、「肝リピドーシス(脂肪肝)」という命に関わる状態を起こすことがあります。

    特に体重が重めの猫はリスクが高くなります。

    「療法食を食べないから、食べるまで様子を見よう」というのは、猫に対しては通用しない考え方です。

    丸2日以上ほとんど食べていない場合は、我慢させず早めにご相談ください。

    どうしても療法食を受け付けない場合、一時的に嗜好性の高いフードで食べる力を保ちながら、少しずつ療法食に近づけていくという判断をすることもあります。

    「正しい食事」よりも「食べ続けられる食事」の方が、結果的にその子のためになることも多いのです。

    新しい選択肢:AIM活性化療法食について


    こちらのコラムでAIMというタンパク質についてお話ししましたが、2024年12月に、AIMの働きをサポートすることを目的とした療法食もすでに発売されています。

    ここで一つ、混同しやすい点があるので整理しておきます。

    このAIM活性化療法食と、「原因について」「治療について」のコラムで紹介した開発中のAIM注射製剤は、まったく別のものです。

    療法食は日々の食事を通じてAIMの働きを支えることを目指すアプローチで、注射製剤とは仕組みも期待できる効果の大きさも異なります。

    現時点では、どの程度の臨床的な効果が期待できるかについては、今後のデータの蓄積を待っている段階です。

    どちらか一方を選ぶというより、既存の療法食の選択肢の一つとして知っておいていただければと思います。

    完璧を目指さなくて大丈夫です


    食事療法の話をすると、「正しくできているか」を気にされるご家族がとても多いです。

    ですが、療法食を100%守ることよりも、その子が毎日きちんと食べて、体重を維持できていることの方が、実は大切だったりします。

    おやつや手作り食を完全に禁止する必要もありません。

    リンやナトリウムが多く含まれるものは注意が必要ですが、少量であれば、その子とご家族の楽しみとして取り入れていただいて構わないと僕は思っています。

    食事は治療であると同時に、その子の生活の質そのものでもあるのですから。

    よくあるご質問


    Q1. 療法食に切り替えてから2日、ほとんど食べていません。どうしたらいいですか?

    A. すぐにご連絡ください。

    猫は数日間食べない状態が続くと、肝リピドーシスという命に関わる状態を起こすことがあります。

    「療法食だから」と我慢させ続けず、一時的に食べられるものを優先することも必要な判断です。


    Q2. ドライフードが好きな子なのですが、ウェットフードに変えないといけませんか?

    A. 必ずしも全てをウェットフードにする必要はありません。

    ドライフードを少量残しつつ、ウェットフードの比率を増やすミックス給餌でも、水分摂取量を増やす効果は十分に期待できます。

    無理に切り替えて食べなくなる方がリスクなので、その子に合ったバランスを一緒に探していきましょう。


    Q3. AIM活性化療法食を食べさせれば、注射薬は必要なくなりますか?

    A. いいえ、両者は別のアプローチです。

    療法食は日々の食事を通じてAIMの働きをサポートするもので、注射製剤ほど強い効果を期待するものではありません。

    今後、注射製剤が実用化された場合も、療法食が不要になるわけではなく、それぞれの役割を踏まえて併用を検討することになると考えられます。


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WRITER 武波 直樹

よつば動物病院 / 院長

山口県出身。1980年生まれ。北里大学卒業後、岡山・神戸の動物病院で延べ3万件の診察と2000件以上の手術を経験。末期の動物を「家で看取りたい」という飼い主の声に応えたいとの思いから、2017年、近畿圏で初の往診専門動物病院「よつば動物病院」を開業。訪問診療はのべ1万3千件を超える。飼い主と動物の「その子らしい時間」を支えることを信条としている。
神戸市獣医師会所属、往診獣医師協会理事、日本獣医循環器学会所属、日本ペット栄養学会所属