• 老猫の夜泣き——その原因、ほとんどは病気で説明できます

    「うちの子、最近年をとって認知症になったのかも」——夜中に鳴くようになった猫の飼い主さんから、往診でよくお聞きする言葉です。たしかに猫も高齢になれば認知症になることがありますが、実際に診察してみると、その背景にはもっと頻度の高い、しかも治療できる病気が隠れていることがほとんどです。

    猫の夜泣き(正式には「夜鳴き」ですが、本コラムでは飼い主さんに馴染みのある「夜泣き」で統一しています)は、見過ごされがちな病気のサインであることが多いのです。

    今回は、猫の夜泣きの本当の原因と、ご家族が向き合うための具体的な対応策をお伝えします。

    猫の夜泣き、その多くは「甲状腺機能亢進症」

    結論からお伝えすると、夜泣きの相談で往診にお伺いした猫の多くが、認知症ではなく甲状腺機能亢進症、そしてそれに伴う高血圧と診断されています。

    甲状腺機能亢進症は、中高齢の猫に非常によく見られる病気です。甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、体全体が興奮状態になり、落ち着きがなくなったり、夜中に大きな声で鳴いたりします。食欲が増える、体重が減る、毛づやが悪くなるといった症状を伴うこともあります。血液検査で比較的簡単に診断でき、内服薬や食事療法で症状をコントロールできることが多い病気です。

    また、この病気が進むと高血圧を併発しやすく、高血圧自体も夜間の不穏や鳴き声につながります。「夜泣き=認知症」と決めつけず、まずこうした病気を確認することが、その子のためにも、ご家族のためにも重要だと考えています。

    夜泣きの原因になりうるもの

    甲状腺機能亢進症以外にも、猫の夜泣きにはさまざまな原因が考えられます。

    夜泣きの主な原因

    甲状腺機能亢進症

    最も頻度が高い原因です。落ち着きのなさ、食欲増加、体重減少を伴うことが多いです。

    高血圧

    甲状腺機能亢進症や慢性腎臓病に続発しやすく、視覚障害や神経症状を伴うことがあります。

    慢性腎臓病

    高齢猫に多い病気で、のどの渇きや夜間の落ち着きのなさにつながることがあります。

    痛み(関節炎など)

    猫は痛みを隠す傾向が強く、夜間じっとしているときに痛みが意識されやすくなり、鳴くことがあります。

    視覚・聴覚の低下による不安

    暗い夜間は外からの情報が乏しくなり、不安から鳴くことがあります。

    認知症

    上記をすべて除外したうえで、なお説明のつかない夜間の混乱が続く場合に疑われます。猫の認知症は超高齢で診断されることが多く、頻度としては比較的まれです。

    まず受診して確認してほしいこと

    夜泣きが続いている場合、自宅での対策を試みる前に、まず一度受診して原因を確認していただきたいです。それは原因によって対応がまったく異なるからです。

    特に、急に夜泣きが始まった、食欲が増えているのに痩せてきた、落ち着きがなくなった、というような変化がある場合は、甲状腺機能亢進症の可能性が高いです。血液検査・血圧測定で多くの原因を確認できます。

    受診の際は、いつから始まったか、どんな声で・どんな状況で鳴くか、食欲や体重の変化があるかをメモしておいたり、動画を撮っておいたりしてもらうと、診断の手がかりになります。

    実際の診察から

    14歳・猫

    夜になると大きな声で鳴き、落ち着かない様子が続いているとのことで往診にお伺いしました。確認のため血液検査を実施したところ、甲状腺機能亢進症であることが分かりました。

    投薬を開始したところ、夜泣きはほどなく落ち着いていきました。「認知症かもしれない」と心配されていたご家族にとって、原因がはっきりして治療につながったことで、安心が得られたケースです。

    原因に応じた対応

    夜泣きの対応は、原因によって大きく異なります。

    病気が原因の場合

    甲状腺機能亢進症

    内服薬や食事療法でホルモンの値をコントロールすることで、夜泣きが改善するケースが多くあります。

    高血圧

    降圧薬によって血圧を管理することで、症状の緩和が期待できます。

    痛み

    鎮痛薬や関節サポートのサプリメントで、夜間の不快感を和らげます。

    環境の工夫(原因にかかわらず役立つこと)

    夜間も薄明かりをつけておく

    暗さへの不安を軽減できます。視力が落ちている猫には特に有効です。

    ・ 就寝前にしっかり遊ぶ

    猫はもともと夜行性に近い動物です。就寝前に運動させることで、夜間に活動的になりにくくなることがあります。

    就寝前の食事を見直す

    寝る前にしっかり食事を与えると、満足して眠ってくれることがあります。

    寝床を安定させる

    いつも同じ場所で眠れる環境を整え、安心感を保ちます。

    「気のせいかな」と流さないでほしい、近隣の声

    猫は犬ほど鳴き声が響かないと思われがちですが、集合住宅やマンションでは、深夜の鳴き声は壁を通して伝わってしまうことがあります。実際、「お隣から声をかけられて、ハッとした」というお話を聞いたこともあります。

    もし夜泣きの治療を始めても改善まで時間がかかりそうな場合は、念のため近隣の方へ一言伝えておくと、ご家族自身の気持ちも軽くなります。「治療中で、もう少しで落ち着く見込みです」と伝えるだけでも印象は変わります。寝室の窓を防音性の高いものに替える、就寝時はカーテンを厚手にするなど、できる範囲での対策も検討してみてください。

    飼い主が元気であることも大切

    夜泣きへの対応で一番削られるのは、ご家族の睡眠時間です。「猫のことだから」と我慢してしまう方が多いのですが、睡眠不足が続くと、判断力や体調そのものが落ちていきます。これは介護を続けるうえで決して軽視できない問題です。

    原因となる病気の治療が始まれば改善が見込めるケースが多いとはいえ、効果が出るまでの期間、ご家族がどう乗り切るかも合わせて考えていく必要があります。日中に交代で休む時間を作る、寝室を分けてみる、といった工夫も必要です。「ここまで頑張ってきたけれど、正直しんどい」と感じたときは、その気持ちをそのまま診察の場でお話しください。猫の治療方針とあわせて、ご家族の負担を減らす方法も一緒に考えていきましょう。

    よくあるご質問

    Q. 夜泣きが急に始まりました。すぐに受診すべきですか?

    A. 急に始まった夜泣きは、甲状腺機能亢進症など治療できる病気が原因であることが多いです。早めに原因を確認することで、その子の苦痛や不快感も早く取り除いてあげることができます。


    Q. 検査をしても異常が見つかりませんでした。次に何を考えればいいですか?

    A. 主要な内科疾患を除外できた場合、視覚・聴覚の低下による不安や、慢性的な痛みなど、検査だけでは分かりにくい原因を考えます。年齢が非常に高い場合は、認知症の可能性も検討します。一度の検査で原因が分からなくても、経過を見ながら再検査することも有効です。


    Q. 甲状腺機能亢進症の治療を始めれば、夜泣きはすぐに治まりますか?

    A. 治療によってホルモンの値が安定してくると、多くの場合、夜泣きも徐々に落ち着いていくことが多いです。ただし、効果が出るまでには数週間かかることもあります。焦らず、定期的な検査で状態を確認しながら治療を続けることが大切です。


    Q. 夜泣きがひどくて、もう限界です。どうすればいいですか?

    A. 介護疲れは決して珍しいことではありません。原因となる病気が見つかれば、治療によって改善する可能性は十分にあります。まずはご自身が今の状況をひとりで抱えなくていいということを知ってほしいです。


    よつば動物病院では、猫の夜泣きのご相談を往診の場でお聞きしています。「年だから仕方ない」と思う前に、まず原因を確認するところから、一緒に始めましょう。

院長の写真

WRITER 武波 直樹

よつば動物病院 / 院長

山口県出身。1980年生まれ。北里大学卒業後、岡山・神戸の動物病院で延べ3万件の診察と2000件以上の手術を経験。末期の動物を「家で看取りたい」という飼い主の声に応えたいとの思いから、2017年、近畿圏で初の往診専門動物病院「よつば動物病院」を開業。訪問診療はのべ1万3千件を超える。飼い主と動物の「その子らしい時間」を支えることを信条としている。
神戸市獣医師会所属、往診獣医師協会理事、日本獣医循環器学会所属、日本ペット栄養学会所属