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猫の腎臓病治療に使われている「薬」について

今回は猫の腎臓病治療において、実際にどんな薬が、どんな役割で使われているのか、整理してお伝えします。
先に断っておきたいのですが、慢性腎臓病の薬は「これを飲めば治る」というものではありません。
どの薬も、進行を穏やかにしたり、症状を和らげたりするためのものです。
その子の状態に合わせて、負担のない範囲でいくつかを組み合わせて使うのが基本になります。
タンパク尿・血圧の薬:フォルテコールとセミントラ
慢性腎臓病でタンパク尿が出ている場合や、血圧が高い場合によく使われるのが、フォルテコール(ベナゼプリル)とセミントラ(テルミサルタン)です。
どちらも糸球体(血液をろ過する腎臓の中の組織)内の圧力を下げることで、尿にタンパクが漏れ出るのを抑える働きをします。
フォルテコールは錠剤、セミントラは液体で、1日1回の投与です。
効果の仕組みは似ていますが、セミントラは長期内服しても比較的使いやすく(大きな副作用が出にくく)、血圧とタンパク尿を同時に管理しやすい薬だと報告されています。
ここで注意していただきたいのは、これらの薬は「安全な薬」というより「注意深く使う薬」だということです。
脱水状態で飲ませると、かえって腎臓に負担をかけてしまうことがあります。
また、飲み始めてから腎臓の数値が一時的に上がることもありますが、これは薬の仕組み上ある程度想定されている変化で、必ずしも悪化を意味しません。
だからこそ、自己判断で量を調整せず、定期的な血液検査と血圧測定をしながら使っていくことが大切です。
進行を抑える薬:ラプロス
ラプロス(ベラプロストナトリウム)は、比較的新しく登場した薬で、IRISステージ2〜3の猫を対象に、腎臓の血管を保護し、血流を保ちながら、炎症や線維化を抑えることで進行を遅らせることを目指します。
フォルテコールやセミントラが糸球体というピンポイントな場所に働きかけるのに対し、ラプロスは腎臓全体に働きかけるようなイメージです。
この薬は現時点で主に日本国内で使われている薬で、海外の獣医師の中には効果の裏付けとなる臨床データについて慎重な見方をする獣医師もいます。
エビデンスは年々積み重なってきていますが、「絶対に効く」と言い切れる段階ではないというのが実情です。
それでも、他の治療と組み合わせる選択肢の一つとして、多くの臨床現場で使われている薬であることは事実です。
尿毒素を吸着する薬
腎臓の機能が落ちると、本来なら尿として排出されるはずの老廃物(尿毒素)が体内に溜まりやすくなります。
この老廃物を腸の中で吸着し、便として排出させる薬として、球形吸着炭(コバルジンなど)が使われることがあります。
ざらついた粉薬やカプセルの形状のものが多く、猫にとっては投薬のハードルが高い薬の一つです。
療法食に混ぜ込んだり、少量のちゅーると合わせたりと、その子に合った与え方を一緒に探っていくことが多いです。
リンを抑える薬
食事療法だけでは血中のリン値が目標に届かない場合、リン吸着剤を食事に混ぜて使います。
腸の中で食べ物に含まれるリンと結合し、吸収されないまま排出させる仕組みの薬です。
効果を発揮するには「食事と一緒に」与えることが絶対条件で、空腹時に飲ませても意味がありません。
この点は、他の薬と大きく違う特徴なので、ぜひ覚えておいていただきたいところです。
貧血を防ぐ薬
腎臓は赤血球を作るよう指令を出すホルモン(エリスロポエチン)も作っています。
腎臓病が進むとこのホルモンが不足し、貧血が起こることがあります。
少し前までは人用のエリスロポエチン製剤を代用することが多かったのですが、人由来のタンパクに対して猫の体内で抗体ができてしまい、使ううちに効果が薄れてしまうという課題がありました。
2023年には猫専用のエリスロポエチン製剤(エポベットなど)が発売され、人由来のタンパクに対する抗体産生のリスクを減らすことが期待されており、より早い段階から使いやすくなってきています。
投与は2週に1回の注射が目安です。
貧血が改善することで、食欲や元気が戻ってくる猫も少なくありません。
食欲や吐き気に対する薬
慢性腎臓病の猫にとって、食べてくれないことは治療そのものと同じくらい大きな課題です。
食欲を引き出す薬としてミルタザピンが、吐き気を抑える薬としてマロピタントが使われます。
どちらも「治療のための体力を保つ」という意味で、地味に見えて重要な役割を担っている薬です。
もともとは人の薬ですが、猫での有効性や安全性についても徐々にデータが蓄積されてきており、用量や投与間隔は獣医師が慎重に調整します。
薬は「その子専用の組み合わせ」です

ここまで紹介してきた薬は、全部の猫に一律で使うものではありません。
タンパク尿の有無、血圧、貧血の程度、食欲の状態など、その子の検査結果と様子を見ながら、必要なものをできるだけ負担の少ない範囲で必要な分だけ組み合わせていきます。
薬の種類が増えると、ご家族の負担も大きくなります。
だからこそ、なぜその薬が必要なのか、僕たちがしっかりと説明することも治療の一部だと考えています。
わからないことや不安なことがあれば、遠慮なく聞いてください。それも含めて、その子の治療なのです。
よくあるご質問

Q1. リン吸着剤を空腹時に飲ませてしまいました。効果はありますか?
A. 残念ながら、空腹時に飲ませたリン吸着剤には、食事中のリンと結合させる効果がほとんどありません。
ただし、体に害があるわけではないので心配しすぎる必要はありません。次回からは必ず食事と一緒に、または食事の直前・直後に与えるようにしてください。
Q2. フォルテコールを飲み始めてから、腎臓の数値が少し上がった気がします。中止した方がいいですか?
A. 自己判断での中止はおすすめしません。
これらの薬は仕組み上、飲み始めに数値が一時的に上がることがあり、必ずしも病状の悪化を意味しません。
ただし、脱水などのサインがある場合は注意が必要なので、気になる変化があれば、中止するかどうかも含めて獣医師にご相談ください。
Q3. ラプロスは本当に効果があるのでしょうか?
A. 腎臓の血流保護や炎症抑制についての研究データは年々増えてきており、多くの臨床現場で使われている薬です。
ただし、他の治療薬に比べると使用の歴史が浅く、効果の感じ方には個体差もあります。
「絶対に効く薬」として過度な期待をするのではなく、他の治療と組み合わせる選択肢の一つとして捉えていただくのがよいと思います。
WRITER 武波 直樹
よつば動物病院 / 院長
山口県出身。1980年生まれ。北里大学卒業後、岡山・神戸の動物病院で延べ3万件の診察と2000件以上の手術を経験。末期の動物を「家で看取りたい」という飼い主の声に応えたいとの思いから、2017年、近畿圏で初の往診専門動物病院「よつば動物病院」を開業。訪問診療はのべ1万3千件を超える。飼い主と動物の「その子らしい時間」を支えることを信条としている。
神戸市獣医師会所属、往診獣医師協会理事、日本獣医循環器学会所属、日本ペット栄養学会所属



