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犬の介護費用と飼い主の心構え
~頑張りすぎないために~犬の介護にかかる費用について
愛犬との生活は私たちに多くの喜びをもたらしてくれますが、年齢を重ねるにつれて介護の必要性が出てくることがあります。犬は人間よりも時間の流れが早く、私たちが思っている以上に急速に高齢期を迎えます。
小型犬でも7〜8歳、大型犬ではさらに早い5〜6歳頃からシニア期に入り、その後の変化も早いのが現実です。1年という時間は人間の約4〜7年に相当するとも言われており、飼い主が気づかぬうちに介護が必要な時期を迎えていることも少なくありません。
このコラムでは、そんな犬の介護費用の実態と、飼い主の方々の心と財布の健康を両立させるためのアドバイスをご紹介します。
(費用はあくまでも目安です。個々の動物の状況や動物病院により異なります。)
犬の時間感覚と高齢化について
犬の高齢化は人間よりもはるかに速いペースで進みます。
例えば
- ⚫︎ 1歳の犬は人間の約15歳に相当
- ⚫︎ 2歳の犬は人間の約24歳に相当
- ⚫︎ その後は犬の1年が人間の約4〜7年に相当(犬種や大きさによって異なります)
このように、私たちが1年と感じる間に、犬は4〜7年分の年齢を重ねているのです。
そのため、数年前は元気だった愛犬が突然介護が必要になったように感じることがありますが、犬にとってはそれだけの時間が経過しているのです。
この時間感覚の違いを理解することで、愛犬の変化に対する心の準備や経済的な準備をより効果的に行うことができます。
犬の介護にかかる主な費用
1. 医療費
高齢犬になると、定期的な健康診断やさまざまな治療が必要になることがあります。主な医療費としては以下のようなものが挙げられます。
- ⚫︎ 定期健康診断(血液検査、尿検査など):8,000円~20,000円/回
- ⚫︎ 慢性疾患の治療薬:5,000円~20,000円/月
- ⚫︎ 専門医による診察:10,000円~30,000円/回
- ⚫︎ 緊急時の処置:20,000円~100,000円以上
特に関節炎、心臓病、腎臓病などの慢性疾患は長期的な管理が必要となり、継続的な出費を伴います。人間の何年分もの老化が短期間で進むため、治療のタイミングや頻度も人間の介護とは異なることを理解しておきましょう。
2. 介護用品
愛犬の生活の質を維持するためには、様々な介護用品が必要になることがあります。
- ⚫︎ 介護用ハーネス・スリング:5,000円~15,000円
- ⚫︎ 老犬用オムツ:3,000円~8,000円/月
- ⚫︎ 体を支える為のクッションやベッド:10,000円~30,000円
- ⚫︎ 滑り止めマット:3,000円~10,000円
- ⚫︎ 車椅子(重度の歩行困難の場合):30,000円~80,000円
3. 食事関連費用
高齢犬や病気を抱える犬には、特別な食事が必要になることがあります。
- ⚫︎ シニア犬用プレミアムフード:5,000円~15,000円/月
- ⚫︎ 処方食:8,000円~20,000円/月
- ⚫︎ 栄養補助食品:3,000円~10,000円/月
4. 介護サービス・サポート費用
仕事などで長時間留守にする場合、以下のようなサービスが必要になることもあります。
- ⚫︎ ペットシッター:2,000円~3,500円/時間
- ⚫︎ デイケアサービス:3,000円~6,000円/日
- ⚫︎ 訪問介護サービス:2,000円~5,000円/回
- ⚫︎ ホテル・一時預かり:5,000円~10,000円/日
飼い主が頑張りすぎないために
自分自身の限界を知ることの大切さ
この子のためにできる限りのことをしたいという気持ちは素晴らしいものですが、飼い主の皆様にも心身の限界があります。犬の時間感覚は人間より速いため、介護期間は短く感じるかもしれませんが、その分、変化も早く、介護の密度が濃くなりがちです。無理をし続けることは、結果的に飼い主さん自身の健康を損ない、この子のケアにも影響を及ぼしかねません。
介護は長期戦です。「今日できないことは明日に」という考え方も時には必要です。すべてを完璧にこなそうとするのではなく、優先順位をつけて対応することが、長期的にはその子のためにもなります。
経済的な計画と選択
介護費用は家計に大きな負担となることがあります。犬の高齢化が人間より早いことを考慮して、早めの準備をすることが重要です。以下のポイントを意識すると良いでしょう
- ⚫︎ ペット保険の活用:
若いうちから加入しておくと、高齢期の医療費負担を軽減できます。犬の年齢が早く進むことを考えると、中年期と思っていても実際には高齢期が近づいている可能性があります。 - ⚫︎ 定期的な健康診断:
問題を早期発見することで、結果的に治療費を抑えられることがあります。人間の数年分の変化が1年で起こりうるため、定期検診の頻度は人間より多めに設定することも検討しましょう。 - ⚫︎ 優先順位の設定:
すべての治療や介護用品を揃えることが難しい場合は、獣医師と相談してその子にとって最も重要なものから選びましょう。 - ⚫︎ DIYの活用:
専用の介護用品が高価な場合、手作りで代用できるものもあります(スロープ、食事台など)。
周囲のサポートを受け入れる
一人で抱え込まず、家族や友人、専門家のサポートを積極的に受け入れましょう。ペットの介護経験者のアドバイスや、時には介護の一部を代わってもらうことで、飼い主さんの負担は大きく軽減されます。
当院でも飼い主様の相談に応じ、現実的なケアプランの提案をしています。「これはやるべきこと」「これは状況によっては省略しても」という専門的なアドバイスを遠慮なくお求めください。
お互いにより良い関係を維持していくために
その子の変化を受け入れる
年を重ねると、性格や行動が変わることがあります。人間の数年分の変化が短期間で起こるため、以前できていたことができなくなったり、新たな習慣や好みが生まれたりすることを自然な変化として受け入れることが大切です。
昨日までできていたことが今日はできなくなるという変化が、人間よりも早く訪れることを理解し、その変化に合わせて接し方や環境を調整していくことで、その子にとっても飼い主さんにとっても、ストレスの少ない生活を送ることができます。
質の良い時間を大切に
介護においては、「量」より「質」が重要な場合があります。犬にとっての1日は、人間の数日分の意味を持ちます。無理な散歩よりも、一緒にくつろぐ時間やその子が好きなマッサージやブラッシングを増やすなど、お互いにリラックスできる時間を意識的に作りましょう。
辛い介護の場面だけでなく、「今日も一緒に過ごせる幸せ」を感じられる瞬間を大切にすることで、より良い関係を続けることができます。犬の時間感覚に合わせると、私たちが考える以上に日々の積み重ねが重要になります。
その子と飼い主、双方の生活の質を考える
介護の目的は単に寿命を延ばすことではなく、残された時間をお互いに幸せに過ごすことです。犬にとっての1年は人間の数年分であることを考えると、その「残された時間」の質はより一層重要になります。時に「できる限りのことをする」と「その子と飼い主双方の生活の質を保つ」のバランスが難しくなることもあります。
その子の表情や反応をよく観察し、苦痛が多くなってきていないか、治療や介護によって日々の生活の喜びが損なわれていないかを定期的に見直すことが大切です。
最後に
愛犬の介護は、経済的にも精神的にも大きな負担となることがありますが、適切な計画と心構えがあれば、その負担を少しでも軽減することができます。犬は人間よりも早く年を重ね、その分、介護の期間も短くなりがちですが、その短い期間の変化の大きさと密度の濃さに戸惑うこともあるでしょう。
「できる限りのことをしなければ」という責任感から、自分自身を追い詰めてしまう飼い主さんも少なくありません。しかし、飼い主さんが疲れ切ってしまっては、その子のためにもなりません。
よつば動物病院では、愛犬との最後の日々を大切に過ごすためのサポートを提供しています。費用面での相談や、介護のコツ、心のケアまで、どんな小さな悩みでもお気軽にご相談ください。
その子との時間は有限です。その貴重な時間を、後悔ではなく感謝の気持ちで満たせるようにお手伝いします。「これで良かったのだろうか」と悩みながらも、ベストを尽くそうとする飼い主さんの姿こそが、その子にとっての最高の幸せなのだと信じています。