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支える動物医療
─治せなくても、その子を支えるということ─「その子らしさ」と“できた”と思えることのために動物医療の現場で日々向き合っていると、時に「治す」ことができない状況に出会います。慢性疾患や高齢による衰え、あるいは複雑な持病の組み合わせ──。
そうした子たちに対して、「治すこと」が難しくなったとき、僕が本当に大切にしているのは、その子がその子らしく過ごせること、そして、飼い主さんが“自分にできることをしてあげられた”と思えることです。
「治せない」ことは、何もできないことではない
僕は、往診を専門とする獣医師として、日々さまざまなご家庭に伺いながら診療を行っています。病院に通うのが難しい子、通院が負担になる高齢の子、終末期をおうちで過ごすことを選んだご家族──そんな皆さんのもとへ伺っています。
往診をしていると、「もう治らないと言われて…」という相談を受けることが少なくありません。でも僕は、「治せない」=「なにもできない」ではないと思っています。
たとえば、慢性腎不全の猫。数値が悪くなっても、こまめな皮下点滴やごはんの選択、環境の見直しで「食べられる日」「よく寝られる日」を少しずつ積み重ねていけることもあります。
また、動くのがしんどくなった子には、床ずれを防ぐマットの提案や、排泄時の姿勢の補助、涼しい場所・あたたかい場所の工夫など、生活の質を支えるアイデアがたくさんあります。
支える動物医療とは、「その子らしさ」を大切にする医療
「その子らしさ」を支える動物医療
「支える動物医療」とは、獣医学的にすべてをコントロールする医療ではありません。その子が、その子らしく、できるだけ心地よく過ごせるように“整える”動物医療です。
検査や数値はもちろん大切です。変化に気づく手がかりにもなります。けれども、数値だけでは見えてこない「その子の調子」や「いつもの様子」があります。医療的なデータを活かしつつ、目の前のその子の姿にちゃんと向き合うことを忘れない。それが支える動物医療の大前提です。
そして、その子らしさは、数字や診断名だけでは見えてきません。
・好きな場所はどこか
・苦手な時間帯はいつか
・家族がそばにいると落ち着くのか、静かな方が好きなのか
──そういった細やかなことこそが、「その子を知る」手がかりです。往診では、その子が過ごしている環境や、空気感まで含めて診ることができます。僕はよく、「その子と一緒に暮らしているつもり」で診療に臨んでいます。つまり、診察だけでなく、暮らしの中にある“その子の日常”を共に感じながら、関わるということです。
正解はひとつじゃない。だから一緒に考える
動物医療の選択に、たったひとつの正解はありません。症状、体力、生活の環境、ご家族の状況──どれもが時間とともに変わっていきます。
だからこそ僕は、その都度、飼い主さんと一緒に「今できること」を考えるようにしています。
最初は毎日皮下点滴をしていた子が、あるときからそれを嫌がるようになった。点滴の回数を減らし、一回の量をふやし嫌なことを極力しないようにし、安心してもらうことを優先するか。
その時々で、「この子にとっては、今はこっちがいいかもしれない」と立ち止まって、選び直していく。それが、支える動物医療のいちばんの難しさであり、深さだと思っています。
飼い主さんの「できたと思える気持ち」が、未来を支える
最期の時間には、どんなに頑張っても、どんなに丁寧に向き合っても、ほとんどの方が「もっとできたかもしれない」と思われます。後悔がまったくないという方は、ほとんどいません。
けれども、「あのとき、その子にとって一番いい選択をしたと思っています」と言われたとき、僕は往診獣医師、特に看取りや緩和ケアを専門としている獣医師としての存在意義を再確認できます。その子のことを誰より知っているご家族が、「これが一番だった」と信じて選んだことなら、それが正解だと思います。それは、どんな選択よりも強いものです。
最期の時間に完璧なケアをすることは、どんなご家庭でも難しいと思います。だからこそ僕は、「自分にできることはしてあげられた」と感じてもらうことが、いちばん大事だと考えています。
それは、特別な医療行為ではないかもしれません。最期の夜にずっとそばにいたこと。好きなごはんを一口でも食べさせてあげられたこと。抱っこして日向ぼっこしたこと。──そんな日常の一コマが、飼い主さんの心に残るのだと思います。
僕の役目は、飼い主さんが「その子のために、ちゃんと向き合えた」と思えるよう支えることだと考えています。診療はその一部にすぎません。
往診でできること・できないこと
往診では、すべての病気を完璧に診断し、完璧に治すことはできません。限られた環境、検査機器、タイミング。その中でできることには限界があります。
けれども、「この子と一緒に過ごしてきた時間」と、「その子の暮らしに寄り添う視点」からできる支援はたくさんあります。僕は、治療者であると同時に、家族の一員のような存在でありたいと願いながら、その子とご家族の支えのひとつになれたらと思っています。
支える動物医療の本質は、「一緒に歩く」こと
慢性疾患や高齢の動物たちには、「治す動物医療」が通じないこともあります。でも、「支える動物医療」なら、いつでも始めることができます。
それは、獣医師が一方的に提供するものではなく、その子の暮らしを一緒に整えていく、飼い主さんとの共同作業です。
そしてそのゴールは、その子がその子らしく過ごすことができること。飼い主さんが、自分にできることをしてあげられたと思えること。
この2つを大切にしながら、僕はこれからも診療を続けていきたいと思っています。
よつば動物病院は、「治すことがむずかしくなった子を、できるかぎり支える」往診を行っています
通院がむずかしい子、治療の選択に迷っている方、「もう何もできないのかも」と感じている方へ。
その子に合わせた「ちょうどいい支え方」を、一緒に探していきませんか?よつば動物病院は、往診でその子の生活と向き合いながら、支える動物医療を実践しています。
どんな小さなご相談でも、気軽にお声がけください。その子の「らしさ」が失われないように、できる限りのことを一緒に考えさせていただきます。