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動物の介護に疲れてしまったときに
夜中に何度も目を覚まし、寝返りを打てなくなった動物の体位を変える。
おむつを替え、床ずれを防ぐために体を拭き、また横にならせる。
昼間は仕事に行き、帰宅すればすぐに食事の介助や排泄の世話。
気づけば、自分の食事は立ったまま、睡眠時間は数時間。
「もう限界かもしれない」と思っても、「私が頑張らなければ」と自分を奮い立たせてしまう。その一方で、「しんどい」と感じてしまう自分を責めてしまう。
このような気持ちになるのは、あなただけではありません。長期間にわたる介護は、誰にとっても心身に大きな負担を与えます。そして、それは決して「愛情が足りない」ことの証ではなく、むしろ深い愛情があるからこそ、休むことができず疲れが蓄積していくのです。
介護疲れの背景と影響
動物の介護は、人の介護以上に「一人きりで抱え込む時間」が長くなりがちです。動物自身が言葉で症状や気持ちを伝えられないため、飼い主が常に状態を観察し、予測し、対応し続ける必要があります。
こうした状態が続くと、
・ 慢性的な寝不足
・ 肩や腰の痛み、体調不良
・ 集中力や判断力の低下
・ イライラや無気力といった感情の起伏
が少しずつ積み重なります。
中には、仕事との両立が難しくなり、退職や休職を考えざるを得ない方もいます。家庭内での役割分担を巡って摩擦が生じることもあります。
「頑張り続けることが最善」と思いがちですが、心身の消耗は、結果的に介護の質を下げてしまうこともあります。
介護の形は一つではない
介護というと、「自分で全て行う」イメージを持たれる方も多いですが、実際にはいくつもの形があります。
例えば、
・ 訪問診療・往診で定期的に健康状態をチェックしてもらう
・ 訪問看護で必要な処置やリハビリを手伝ってもらう
・ 介護補助グッズ(歩行補助ハーネス、床の滑り止め、昇降スロープ)を活用する
・ 家族や友人に「ここだけはお願いする」部分的な協力を得る
・ 数日間の短期預かりサービスを利用して、介護者が休養する
こうした方法を組み合わせることで、「すべて自分だけで抱える」状況を避けることができます。
介護施設という選択肢
「介護施設に預ける」と聞くと、「見捨てることになるのではないか」と感じる方は少なくありません。しかし、施設を利用することは、愛情を手放すことではありません。むしろ、プロによる24時間体制のケアや医療的サポートを受けることで、動物が快適に過ごせる時間を増やすことができます。飼い主自身も心身を回復させ、再び笑顔で向き合える余裕を取り戻せるでしょう。
もちろん、施設選びには注意点もあります。
・ スタッフの経験や知識
・ 医療対応の有無
・ 清潔さや動物の様子
・ 面会のしやすさ
を事前に確認することが大切です。
まず相談してほしい
「もう限界」と思ってから動くよりも、「少ししんどいな」と感じた時点で、信頼できる獣医師や往診サービスに相談してください。
早期に関わることで、
・ 症状の進行を緩やかにするケア
・ 飼い主の負担を減らす工夫
・ 適切な介護グッズやサービスの提案
など、できることはたくさんあります。
僕の経験でも、早い段階で介入できたケースほど、動物も飼い主も穏やかな時間を長く保てています。
締めのメッセージ
介護は、動物とあなたの時間をつなぐ大切な営みです。しかし、そのためにあなたが心身を壊してしまっては、本来の目的である「その子らしい時間を守る」ことが難しくなります。
「頑張れない自分」を責めないでください。
そして、ひとりで抱え込まず、助けを借りることをためらわないでください。
もし今、介護がつらいと感じているなら、まずはお気軽にご相談ください。
一緒に、動物とあなたの両方が穏やかでいられる介護の形を探していきましょう。

WRITER 武波 直樹
よつば動物病院 / 院長
山口県出身。1980年生まれ。北里大学卒業後、岡山・神戸の動物病院で延べ3万件の診察と2000件以上の手術を経験。末期の動物を「家で看取りたい」という飼い主の声に応えたいとの思いから、2017年、近畿圏で初の往診専門動物病院「よつば動物病院」を開業。訪問診療はのべ1万3千件を超える。飼い主と動物の「その子らしい時間」を支えることを信条としている。
神戸市獣医師会所属、往診獣医師協会理事、日本獣医循環器学会所属、日本ペット栄養学会所属