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「その子らしさ」を支える動物医療を目指して
「よつば動物病院」は、往診専門の動物病院です。
診察室ではなく、ご自宅で、いつもの空気の中で。
その子の暮らしのなかにお邪魔して、ご家族と一緒に、その子がその子らしく過ごせるための手助けをする。
それが、よつば動物病院の目指す動物医療のかたちです。病気の診断や治療、症状への対応はもちろん大切です。
でも、それだけでは十分ではないと、僕は考えています。
検査で出てきた数値や画像、教科書に載っている「標準的な治療法」だけでは測れないものが、動物たちとの暮らしにはたくさんあるからです。たとえば、少しずつ歩くのがしんどくなってきた老犬にとって、外に出る散歩はどこまで続けるべきでしょうか。
痛み止めを飲みながらでも、一歩でも外に出たい子もいれば、玄関の段差を超えるのが負担になる子もいます。
食事も、数値を見れば制限が必要な場面もありますが、嗜好性や食べ方の工夫で「楽しく食べる」ことを守れる場合もあります。病気を「治す」ことと同じくらい、
「その子にとって何が幸せか」「どこまでが頑張れるか」をご家族と一緒に考えること。
それが、僕の考える「支える動物医療」です。印象に残っている子がいます。
高齢のミックス犬で、後ろ足の筋肉が落ち、踏ん張りがきかなくなっていました。
それでもその子は、毎回決まった場所に歩いて行って、そこで水を飲むのがしたかったようです。
滑って転びながらも、時にははって行ってまで、なんとかその場所へ行こうとする姿がありました。ご家族は床にマットを敷いて、少しでも滑らないよう工夫をされていましたが、それでもうまくいかない場面が多く見られました。
そこで、「トゥーグリップス」という、爪に装着する滑り止めを提案しました。
最初は慣れずに、うまく歩けない様子もありましたが、時間が経つにつれて少しずつ踏ん張れるようになり、再び歩いて自分の行きたい場所へ行けるようになりました。その子にとって「自分の足で水を飲みに行く」という日常は、ただの行動以上の意味を持っていたのだと思います。
そして、その姿を見守るご家族にとっても、「その子らしさ」を取り戻す時間になったのではないかと思います。ときには、すべての検査を行うことが難しい状況もあります。
ご家族がご高齢で体力的に負担が大きい場合や、ご家族の事情で通院が難しい場合もあるでしょう。そんなとき、往診は「完全な診断・完璧な治療」を目指す動物医療としては力不足だと思います。
でも、「少しでも楽に過ごせるようにする」「自分にできることをしてあげたい」
そう願うご家族のそばにいて、一緒に考え、選んでいける動物医療でありたいと考えています。ある患者さんのご家族が、最期を看取ったあと、こうおっしゃいました。
「後悔がないわけではないけれど、自分ができることをできるだけしたので納得しています」と。
それは、動物医療にかかわるものとして何よりの言葉でした。「後悔のない看取り」ができるにこしたことはありませんが、必ずといっていいほど後悔は残ります。ですので僕は、「後悔のない看取り」を目指しているのではありません。
「その子のために、自分たちは最善を尽くせた」と思ってもらえる時間を作るお手伝いをしたいのです。
動物と人とが、最後までつながっていられるように。
その絆を支えることが、私たちの往診動物医療の原点です。「こんなこと相談してもいいのかな?」
「こんなこと動物病院の先生に聞いてもいいのかな?」
「通院が難しくて、家で何ができるのかわからない」
そう思われたときこそ、お声がけください。動物と暮らすことは、楽しいことばかりではありません。
年を重ね、病気になり、いつか別れのときが来る。
それでも、「この子と出会えてよかった」と思える時間を、一緒に作っていきたい、そう考えています。そしてもう一つ、当院の取り組みに変化がありました。
2025年6月からは、愛玩動物看護師(動物の看護師)とともに診察にお伺いしています。
これにより、これまで以上に食事や介護に関するアドバイスを充実させることが可能になりました。
また、「体調が気になるけれど頻繁な往診は難しい」といった場合にも、よりきめ細やかに対応できるようになってきたと感じています。
診察の内容によっては、愛玩動物看護師が単独でお伺いすることもありますし、僕と一緒に伺うこともあります。
往診という動物医療のかたちの中で、ご家族とその子の暮らしを支える選択肢を、これからも広げていきたいと考えています。

WRITER 武波 直樹
よつば動物病院 / 院長
山口県出身。1980年生まれ。北里大学卒業後、岡山・神戸の動物病院で延べ3万件の診察と2000件以上の手術を経験。末期の動物を「家で看取りたい」という飼い主の声に応えたいとの思いから、2017年、近畿圏で初の往診専門動物病院「よつば動物病院」を開業。訪問診療はのべ1万3千件を超える。飼い主と動物の「その子らしい時間」を支えることを信条としている。
神戸市獣医師会所属、往診獣医師協会理事、日本獣医循環器学会所属、日本ペット栄養学会所属