• 高齢の親とペットを支える動物往診サービス。
    離れていてもできるケア

    実家に帰ったとき、いつもソファでくつろいでいた愛犬の動きが、なんだか前より鈍くなっている気がする。

    母が「最近あまり食べなくなって」とぽつりと言ったけれど、すぐに「でも年だから仕方ないわね」と笑って話題を変えてしまった——。

    そんな経験、ありませんか?

    見過ごされがちな、実家の動物の変化

    往診専門の獣医師として日々感じるのは、高齢の飼い主さんのもとで暮らす動物たちが、必要な獣医療を受けるタイミングを逃しているケースが少なくないということです。

    「動物病院まで連れて行くのが大変で」

    「この子も年だから、こんなものかなと思って」

    「獣医さんに診てもらうほどではないかも」

    親御さんからこうした言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

    車の運転をやめた、重いものを持つのがつらくなった、体の不調で自分の移動ですら大変、バスや電車での移動が億劫になった。

    そんな小さな変化の積み重ねが、動物病院への足を遠のかせる理由になっています。

    小型犬や猫であったとしても2~3kgあるキャリーに入れて公共交通機関で移動するのは現実的ではありません。それよりも大きな動物であればなおさらです。

    でも、「動物病院に連れて行けない」ことと、「この子は元気だ」ということは、必ずしもイコールではないのです。

    離れて暮らしているからこそ、気づくこと

    月に一度、あるいは数ヶ月に一度しか会わないからこそ、その子の変化に気づくことがあります。

    「あれ、こんなに毛並みがパサパサしていたかな」

    「前はもっとしっぽを振って迎えてくれたのに」

    「歩き方が、なんだかぎこちない」

    「なんだか前より小っちゃくなったな」

    一緒に暮らしていると、毎日の少しずつの変化は意外と気づきにくいものです。でも、久しぶりに会ったあなただからこそ見える変化があります。

    往診にうかがうと、ご家族の方が「最近こんなことが気になっていたんです」と、親御さんが話さなかった症状を教えてくださることがよくあります。

    「母は『大丈夫』って言うけれど、私は心配で」という声も。

    そんなとき、僕たちは診察をするだけでなく、親御さんとも丁寧にお話をするようにしています。

    その子の診察は、家族みんなのケアでもある

    往診でお宅にうかがうと、その子の様子だけでなく、飼い主さんの生活の様子も自然と見えてきます。

    散歩に行く回数が減っているのは、その子の足腰が弱ったからなのか、それとも飼い主さん自身が疲れやすくなっているからなのか。

    食事の量が減っているのは、その子の食欲の問題なのか、あるいは飼い主さんが以前ほど食事の準備に手をかけられなくなっているからなのか。

    高齢の親御さんと動物が暮らす家庭では、動物の変化と飼い主さんの変化が複雑に絡み合っていることがほとんどです。

    だからこそ、僕たちはその子の診察をしながら、親御さんの様子にも気を配るよう心がけています。

    「最近お散歩は行けていますか?」

    「ご自身のお体の調子はいかがですか?」

    「何か困っていることはありませんか?」

    こうした会話の中から、この子にとって、そして飼い主さんにとって、今本当に必要なケアが見えてくることがあります。

    「うちの子、診てもらえますか?」その一言が、大きな安心に

    往診を依頼してくださる方の中には、ご自身が直接依頼されるのではなく、離れて暮らすお子さんやご家族からの依頼も多くあります。

    「母が一人で暮らしていて、猫を飼っているんですが、最近様子がおかしいみたいで」

    「実家の犬が高齢で、父も足が悪くて病院に連れて行けなくて」

    こうしたご相談をいただいたとき、僕たちは単に動物を診察するだけでなく、親御さんとの信頼関係を築くことも大切にしています。

    突然知らない人が家に来ることへの不安や、「自分でちゃんと世話ができていないと思われるのでは」という気持ちに寄り添いながら、お話を聞くようにしています。

    診察が終わった後、親御さんから「来てもらってよかった」「また何かあったら頼めると思うと安心」という言葉をいただくと、その子だけでなく、家族全体のサポートができたのかなと感じます。

    実際に、離れて暮らす娘さんからご依頼をいただいたこともありました。

    「母が飼っている犬の様子が気になるけれど、本人は『大丈夫』と言ってしまうので」と心配されていたケースです。

    往診にうかがうと、治療が必要な状態でした。

    診察と処置を終えたあと、お母さんの前で娘さんに電話をつないでいただき、経過と今後の治療について丁寧にご説明しました。

    電話の向こうで娘さんがほっとした声で「これで安心できます」と言い、お母さんも嬉しそうに笑っていたのが印象に残っています。

    お子さんとも連携しながら、最善のケアを

    往診の際、僕たちが大切にしているのは、親御さんだけでなく、離れて暮らすご家族の方とも連携を取りながら診察を進めていくことです。

    例えば、診察後に検査結果や治療方針をご家族にも共有したり、日常のケアで気をつけるポイントをお伝えしたり。

    親御さんの了解を得たうえで、お子さんに状況を報告することもあります。

    「母は『大丈夫』としか言わないので、先生から直接話を聞けて安心しました」

    「離れて暮らしていても、様子がわかるので助かります」

    こうした声をいただくたび、情報を共有することの大切さを感じます。

    また、治療の選択肢を考える際にも、親御さんの意向を尊重しながら、ご家族の方とも相談しながら進めていきます。

    投薬の頻度や通院の負担、費用のこと。

    こうした現実的な問題について、一緒に考えていけるのが往診の良さだと思っています。

    親御さんにとっては「子どもに心配をかけたくない」という気持ちがあり、お子さんの側には「親の負担を増やしたくない」という思いがある。

    その両方の気持ちを大切にしながら、その子にとって最善のケアを一緒に考えていく。

    それが、僕たちが目指している往診のかたちです。

    遠慮しないでほしい、小さな「気がかり」

    「こんなことで往診を頼んでもいいのかな」と迷われる方もいらっしゃいます。

    でも、小さな気がかりこそ、早めに相談していただきたいのです。

    「なんとなく元気がない」

    「食べる量が減った気がする」

    「前より寝ている時間が長い」

    こうした変化は、飼い主さんにとっては「年のせいかな」と思える程度のものかもしれません。

    でも、獣医師の目から見ると、実は治療が必要な病気のサインだったということもあります。

    往診は、動物を連れて病院に行く負担がないだけでなく、住み慣れた環境で落ち着いて診察を受けられるというメリットもあります。

    緊張しやすい子や、移動がストレスになる高齢の動物にとっては、往診のほうが体への負担が少ないこともあるのです。

    また、それは高齢の親御さんにとっても同じことなのです。

    親とその子、どちらも大切な家族だから

    離れて暮らしていても、親のことは気になるもの。

    そして親が大切にしている動物のことも、やはり気になりますよね。

    往診は、病院に連れて行けないという物理的な問題を解決するだけでなく、離れて暮らす家族の「心配」と、親御さんの「遠慮」や「我慢」の間に立って、必要なケアを届ける役割も担っています。

    「実家の動物、ちょっと心配だな」と感じたら、それは往診を考えるタイミングかもしれません。

    親御さんと直接話すのが難しければ、僕たちにご相談ください。どんな小さなことでも構いません。

    その子の健康を守ることは、親御さんの笑顔を守ることにもつながります。

    僕たちよつば動物病院は、神戸市・明石市の往診を通じて、その子とご家族の暮らしをサポートしていきたいと考えています。

院長の写真

WRITER 武波 直樹

よつば動物病院 / 院長

山口県出身。1980年生まれ。北里大学卒業後、岡山・神戸の動物病院で延べ3万件の診察と2000件以上の手術を経験。末期の動物を「家で看取りたい」という飼い主の声に応えたいとの思いから、2017年、近畿圏で初の往診専門動物病院「よつば動物病院」を開業。訪問診療はのべ1万3千件を超える。飼い主と動物の「その子らしい時間」を支えることを信条としている。
神戸市獣医師会所属、往診獣医師協会理事、日本獣医循環器学会所属、日本ペット栄養学会所属